東京大学未来ビジョン研究センターのライフスタイルデザイン研究部門から客員准教授として2019年から任命を受け、この期間中に健康に関する様々な専門家や研究者に実務家の方々と交流を持つ機会がありました。
その中で、私が感じた日本人のライフスタイルと健康に関しての課題及びその向き合い方に関して、任期を終えようとしているこのタイミングでブログというラフな形式で個人的見解を残しておきたいと考え、ここに記載したいと思います。なお、この見解はあくまでも関谷個人の見解であることは念押ししておきます。
【ライフスタイルと健康】
さて、いま日本人の抱えている健康への心配事とはなんでしょう?
病気にかからず「いつまでも若々しく、元気でいたい」というのが、多くの人の想いではないでしょうか。
それでは病気にかからないように、皆さんは何か行動していますでしょうか?
現代社会ではインターネットを通じて、病気予防の情報も簡単に入手出来ます。病気にならない、究極的には死因に結びつかないという観点で、日本人の死因を調べてみると、第一位がいわゆるガン(厚生労働省の統計では「悪性新生物」)、第二位が心臓病(同様に厚労省統計では「心疾患」)、三位に老衰、以下脳血管疾患(いわゆる脳卒中)、肺炎と続きます。
ここで、死因の歴史的推移に着目すると、将来にも役立つ状況が見えてきます。現在死因第四位となっている脳血管疾患は、1950年代から死因の第一位でした。しかし、1970年をピークに低下傾向が続き、1981年にガンに第一位が代わってから、2023年の全死亡者に占める割合は6.6%と下がってきています。これは脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血等)を発症する要因となる高血圧や糖尿病にならないよう、塩分糖分を控えたり飲酒喫煙を控えるよう医師や薬剤師、栄養士の指導が事業所の健康診断でも行われてきたことが背景にあると言われています。
つまり、専門家の助言や提案によって、人々がライフスタイルを健康を意識したものに変えることで、病気の予防に成功し、健康長寿な社会を生み出しているということです。
【健康を阻害している時代の背景】
これら統計で分かることとは別に、医師・産業医として診療を行っている実感では、私が医学部を卒業して勤務医として働き出した1990年代と比べると、明らかに異なる疾患に関する相談が増えてきています。私なりに分析してみると、社会のデジタル化とスマートフォンの登場が大きく影響していると推測しています。
まず、職場でいま一人一台のPCがあてがわれ、社内連絡から資料作成まで全ての業務がデジタル化されているでしょう。たとえ、商品製造の工場でも、製造機械を操作するのはモニター画面を見ながら行うようようなデジタル対応になっているのではないでしょうか。さらにスマートフォンの登場で、昔は紙にして見ていた地図や書籍に、ゲームや映画もスマートフォンを使う生活に変わってきました。
Microsoft社が本格的なマルチメディア機能やネットワーク機能を実現したOSとして「Windows 95」を発売したのは1995年。Appleがスマートフォン「iPhone」を発表したのは2007年、「Android」対応のスマートフォンも2009年に発売されました。フューチャーフォン(日本ではガラケーとも)と称された携帯電話が、2010年代に入るとインターネット・コミュニケーション・デバイスの機能も搭載された「iPhone」などのスマートフォンに切り替わったのは、働いている世代の人々は皆さん身近に体験しているでしょう。
世界中の人々のライフスタイルを画期的に変えたとまで言える、便利で楽しいスマートフォンですが、反面1日数時間も利用することで、人々が健康を損なう要因の発端が新たに生まれたとも言えます。既に多くの医師や医学研究者が指摘しているスマートフォンやパソコンを見続けることで、首肩のこり、眼精疲労という症状が現れ、それらが原因となってストレートネックや頭痛、不眠、ドライアイ、めまいまで生じるようになることをスマートフォン症候群という病名で呼ばれるようにまでなりました。
【阻害要素を取り除くための努力】
スマートフォン症候群の原因であるモニター画面の見過ぎは職場だけでなく、プライベートも要因になっていますから、社会全体で解決の方法を見いだしていかなくてはいけない課題だと言えます。
スマートフォンやパソコンは便利ではありますが、毎日十数時間も使い続けるのを避けるには、働く現場でも学校でも家庭でも、その危機感を共有する必要性があると考えています。この新たな病気に対しては、このままでは更に拡大して行くことは間違いなく、新たな規範を設けて、自分自身だけでなく取引先や家族に対しても、スマホやパソコンの使用を強制しない枠組みが求められているような気がしています。
【次の時代の健康長寿を考えた、新しいライフスタイルのデザインとは】
スマートフォン症候群で生じる個々の病気や症状に関しての対応策は、いつか詳しく語りたいと思いますが、まずはザックリと2010年代に生まれた新しい症状・病気に対しては、予防策を提唱する新しい考え方・枠組みが必要と考えています。
病気は病院で治療するという流れとは異なる視点、脳卒中を食事制限や生活習慣を変えることで発症数を減少させたのと同じ手法です。つまり社会全体でスマートフォンを許容しながら同時に健康を考え、予防策を共有し、病気を未然に防ぐという趣旨をとらえるという枠組みで『ヘルスセキュリティー(健康の防護)』というメソッド(目的を達成するための手順や手法、方法論)だと思っています。
特にこのヘルスセキュリティーを導入することが求められているのは、働く環境を提供している職場(事業所)であり、会社全体の取り組みとして従業員の病気を未然に防ぐ活動と意識共有を行う発火点になって欲しいです。「家庭の医学」という書籍がありますが、ヘルスセキュリティーを事業所でも実施する上では『会社の医学(Company Medicine)』という観点が求めら得ており、このことに関しては近いうちに書籍としてまとめるつもりです。
【人生百年時代の個人と企業の新しい長寿健康対策】
人生百年時代に突入したとも言われ、平均寿命とは別に健康上の問題が無い状態の「健康寿命」を伸ばそうという取り組みが行政でも行われています。健康寿命に近い考え方で、幸せで生き生きと暮らしている状態を「幸福寿命」と呼ぶようになりました。平均寿命が百年に近づいている中で、ヘルスセキュリティーが社会に備えられれば、幸福寿命も百年続けられるという意味で『百年幸福寿命』を目標にしていくのが正しいような気がします。
企業の間では健康経営という考え方が浸透しつつあり、国もこの考え方が浸透することを後押ししています。デジタル社会に突入し、世界中の情報が瞬時に共有される時代になると、スマートフォンは情報を提供している側にも制限が求められてくるでしょう。まさに新しい時代の健康は個人だけでは解決出来ず、職場や社会全体、もしくは世界中で健康を阻害する要素を取り除く必要があるわけです(例えばスマートフォンを使わない時間帯や場所など利用のルール作り)。
少子高齢化が進展している日本では、今後65歳以上の高齢者にも働き続けてもらうような受け皿を、政府も企業も備えていくことが重要です。百年幸福寿命が実現出来れば、企業としても経験豊富な高齢者を労働力として迎えることで、経営基盤が安定し、永続的な利益確保を図れるという観点で、目指すべき目標として百年を紡いでいく『千年健康経営』が挙げられるように思います。
身体的にも精神的にも、病気にかからず「いつまでも若々しく、元気でいたい」という健康的なライフスタイルを過ごせることで、個人の生活の充実と共に、企業活動の永続性を確保できるようになり、地域社会の活性化にも役立つでしょう。
今後も医師・産業医として私は、人間の健康についての研究と発信を続けていく所存です。
関谷 剛
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