食と環境の未来戦略研究

ブラインドチェックの実施方法 〜食・飲食での事例を参考に〜

<ブラインドチェック・ブラインドテストとは>
ブラインドチェック(目隠しテスト)とは、被験者や参加者がテストの内容や問題の答えを事前に知らされない状態でテストを受けることを指します。この方法は、被験者や参加者の知識や予備知識がテストの結果に影響を与えることを防ぎ、テストの客観性を保つために使用されます。

例えば、医学や薬学の研究において、被験者が実験条件やテストの目的を知らされない状態でテストを受けることがあります。医学や薬学の世界ではブラインドテストには二種類あり、医師の側は知っていて被験者側のみ治験薬の中身を知らされずに行われる試験手法「シングル・ブラインド・テスト(Single blind test、単盲検試験ともいう)」と、治験に関わる医師も被験者を含めた全員どんな薬を投与する(される)のかわからない「ダブル・ブラインド・テスト(Double blind test、二重盲検試験)」があります。ブラインドにすることにより、被験者の予想や期待がテスト結果に影響を与えることなく、客観的な評価を行うことができることから、新薬の治療効果・有効性を確かめるための比較試験では一般的に行われています。

 

<食品や料理業界で行われるブラインドチェックとは>

食の場合では、同じ食品(商品)で製造メーカーやブランド名を明かさずに食べ比べを行うことは、食品の開発現場ではよく行われています。飲食の世界では、料理人が技術を競い合う料理大会でも、審査員は誰が作った料理かが分からないまま、料理の評価を行うのは、審査に人間関係という料理そのものの評価とは別の「情(じょう)」が入らない、入る余地を作らないためにレベルの高い料理大会であれば、ブラインドテストは一般的に用いられている手法です。

私が過去に裏方の一人として参加した日本料理アカデミーが主催して一年に一回開催される日本料理大賞(以前は日本料理コンペティション)では、料理人の料理技術に関する審査員とは別に、出来上がった料理の味に関しての審査では、どの料理人がどういう手順で作ったかは見ていない別の審査員3名が別室で試食を行い、味と外観(盛りつけや彩りなど)の審査を行っていました。

 

<「外食チェーンのうな丼チェック」を事例に>

うなぎと丼の情報発信サイトの編集長に就任した2020年からは、私自身が主宰者となり夏の土用の丑の日に向けて、外食チェーンで1,000円前後で提供されているうな丼(うな重)を、鰻のプロ3名に評価員となって貰い、ブラインドテストの手法を用いて「外食チェーンのうな丼チェック」を毎年実施しています。

具体的なブラインドテストの方法と注意点を紹介すると、外食チェーンのうな丼チェックの場合、評価員にブラインド(目隠し)する必要のある要素としては、評価員が試食するうな丼がどの飲食会社(飲食ブランド)であるかという点です。よって、当然のことながら店では試食はしないため、店からテイクアウトするのだが、持ち帰り用容器に会社名や会社ロゴマークが描かれていたりするため、別の容器に移し替える必要があります。また、会社によっては蒲焼きの切り方に特徴があったりするので、その特徴が分からないように、全ての蒲焼きを小さく切り分けておく作業も必要となります。別添えのタレも、袋に会社名やブランド名が書かれていることがあるため、アルミ製の容器に移し替えないといけません。

日本料理大賞でもそうでしたが、試食中に評価員は声を出してはいけないというのも、外食チェーンのうな丼チェックでも徹底しました。一人の評価員が「美味しい!」とか「不味い」という声を上げると、他の評価員の審査に心理的な影響を与えるからです。無論、試食チェックや外観チェックの審査中は、評価員同士では一切会話を交わさないように、評価員の行動をチェックする主宰者(評価員をチェックする責任者)が同席しています。外食チェーンのうな丼チェックのケースだともう一つ、評価にあたって、公平性を保つために、うなぎの蒲焼きの切り取る部分に気を配っています。それは、鰻の場合、頭に近い場所と尾っぽに近い場所では美味しさが変わることが科学的に証明されているため、鰻としての美味しさの条件を揃えるという観点から、試食ではうなぎの蒲焼きで尾っぽに近い場所(おおよそ全体の長さから尾っぽに近い1/3〜1/4の部分)は試食用からははずすという手間を掛けています。

外食チェーンのうな丼チェック2024評価会

 

<ブラインドチェックで先入観を入れず、客観性の高い評価を行う>

ブラインドチェックという手法を使って、これだけの手間や作業工程を経て、うな丼に付いての評価を行ってみると、客観性の高い結果が毎年出ていると感じています。鰻は本来淡泊な白身の川魚でありながら、実際に口にするのは養殖されていることで、生育環境や餌によって味が変わりやすく、そこにタレの甘辛さが加わり、素人では美味しさの判別が格段に難しい料理であるため、鰻とタレについて経験があるプロだから、ブラインドで評価ができるとも言えます。

外食チェーンのうな丼チェックでは、ファミリーレストランチェーンのガストや牛丼チェーンのすき家・松屋・吉野家、回転寿司チェーンのくら寿司、持ち帰り弁当チェーンのキッチンオリジンなど、全国展開している誰もが知っているブランドが並びます。飲食ブランドを聞くと、人それぞれ、ブランドに関しては先入観があったりする。そういう思い入れや過去にネガティブな経験があったりすると、どうしても試食前にブランド名を聞いてしまうと、評価に影響を受けてしまう可能性は否定できません。

また、2024年の外食チェーンのうな丼チェックの評価会を行いましたが、評価員は2023年の評価結果を知っているため、ブラインドにしなければ同調意識が働いて、昨年上位に入ったブランドを高く評価してしまう可能性もあります。日本のテレビで二十年程前に、料理の味を複数の審査員が評価して決める番組がありましたが、料理人の調理工程を見ながら、審査員同士が会話していました。あれでは料理そのものよりも料理人個人と審査員の関係性に重きがおかれてしまい、純然たる味の評価にはなっていないという指摘があっても反論はできないでしょう。しかし、そもそもテレビ番組は、料理大会ではなく、エンタテインメントであり、ブラインドチェック評価会のように審査員が感嘆の声もあげてはいけないのだと、映像作品としては見続けるのは難しいであろうから、味や料理の評価大会とは別物として捉えるのが正しいと思います。

 

<ブラインドにする意義と未来>

一方で、メディアが多様化する中で、ブラインドチェックを取り入れた雑誌やWebサイトも増えて来るような気がします。外食チェーンのうな丼チェックも2024年夏で第5回を重ねましたが、一般視聴者からの反響の大きさもありましたが、審査対象になった外食チェーンのうな丼が、明らかに年々レベルアップしているのは、鰻のプロがブラインドチェックで客観性のある評価を出していることが関係していると思えてなりません。

本当にブラインドチェックを厳格に実施するには、どの要素をブラインドにするか、どうブラインドしないといけないかを見極める必要があります。経験の無い人が取り組みには、ハードルは高いかも知れませんが、食の研究者や食品会社の開発者なら経験はあるので、ぜひ中学校や高校でも経験者に教えを請うようにして、普段食べている食事や食品をブラインドチェックで食べ比べして、メーカーやブランドによって味が違っていることを知って欲しいと願っています。なぜなら、ブラインドチェックは子ども達の食育とも大きく関係しており、本当の美味しさを知ることは健康長寿にも結びついているからです。

外食うな丼チェック2024_評価集計表_最終版